
「階段」と聞くと上り下りが面倒だとか、高齢になってからは2階、3階への移動は負担が大きいとか学生時代の部活練習で何往復もダッシュさせられた思い出など「苦しいもの」というマイナスなイメージが先行している風潮があります。
そのように階段を敬遠される側面もありますが、一戸建て住宅においては国土の狭い日本では2階建の住宅有りきで分譲地の区画が行われていることもあり、地方都市から少し離れた地域でない限り平屋を建てられる敷地がないという現実があります。エレベーターという手段もありますが資金的に余裕のある方でなければ避けては通れない「階段」がそこにあります。
上下階の縦の移動をするという特殊な役割を担うのが階段です。
人が階段を移動すると舞台装置のように劇的に場面が切り替わり別の空間が現れてきます。空間と空間の緩衝地帯でもあり別の目的の部屋へ移動する間に気持ちを切り換えるための場でもあるように思います。
ある場所から別の空間へ移動する緩衝地帯、「空」を生み出す魅惑の部分とも言えます。身体運動と脳のはたらきの関係性から、散歩中に何かをひらめいたり思い出したりすることがありますが、階段の移動中も同様のことが思いあたらないでしょうか。「身体を動かすと脳が情報整理をしやすくなる。」というのをなんとかガッテンだったか、なんとかちゃんに怒られるといったテレビ番組でも見たことがあります。
階段を廊下の一部と考え片隅に追いやり、2階の廊下へと続くプランの場合はただただ移動のための装置です。しかし移動装置以外の役割を与えると、とても魅力的な存在になるポテンシャルを秘めていると思います。
リビングやダイニングの中にある場合は特殊なデザインや構造によってその建物の中心として据えられることもあります。また時には「座る」役割を与えればより面白い空間ができあがるでしょう。時には見上げたり見下ろしたりという空間のヒエラルキーを可視化するための装置になったりもします。結婚式ではドレスアップされた新郎新婦がきらびやかにゆっくりと階段を降りてくる演出がなされたりもしますね。
リビング階段を避けたい場合には玄関ホールに階段を計画すれば広々とした玄関になりそうです。回り階段とするれば家の象徴的な存在となること間違い無しです。
バリアフリーが叫ばれる昨今、平屋の人気が高まっています。高齢になったり、怪我や病気の際には何でこんな階段にしてしまったのかと後悔に苛まれるリスクは当然あります。しかしどの道避けて通れない「階段」があるならば、その存在を肯定的に捉え、魅力を引き出し住宅の中心に据えるのも面白いのではないでしょうか。
上りやすい階段寸法
一般の人には無縁ですが、人間工学的に上り下りしやすい階段の計算式なるものがいくつか存在しています。これは設計者が知っていれば良いだけの話のようにも思いますが代表格のものを紹介しておきます。
2R+T=60~63
R:蹴上(一段の高さ)
T:踏面の奥行き(階段板の上面の広さ)
数字が大きいほど大きな歩幅が必要になってきます。個人的な感覚ですが高さ20cmを超える階段は登るのに力がいるなと思います。できれば20cm以下に抑えたいですね。階段の段数や配置、建物の高さにも関わってくる内容ですので設計者の腕が試される部分です。
