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耐震

向こう30年の間に南海トラフを震源とする巨大地震が起こる確率は80%といわれ、ハザードマップを見たり災害用の備えをしたりされている方が多いと思います。プレートの狭間にできた島国日本ではどこの地域で巨大地震が起こっても不思議ではありません。地図で日本列島のいびつな島の形を見ると過去にプレートの衝突によってできた島であろうことは専門家ではないですが想像がつきます。それが一回の巨大地震によって瞬間的に出来上がったのか長い年月をかけてジワジワとそうなったのかはわかりませんが…。そんな日本では建築基準法によって耐震についての基準(耐震等級1)が定められています。

新耐震基準(耐震等級1)=建築基準法の規定
震度5強程度の地震に対しては建物の機能を保持
震度6、7程度の地震に対しては損傷はしても倒壊、崩壊はしない

耐震等級2
耐震等級1に対して1.25倍の耐力(耐力壁の数量)を有する

耐震等級3
耐震等級1に対して1.5倍の耐力(耐力壁の数量)を有する

巨大地震と法改正
1950年建築基準法施行
1981年(昭和56年)耐震基準法改正
1995年(平成7年)阪神淡路大震災M7.3
2000年(平成12年)新耐震基準
2004年(平成16年)新潟県中越地震M6.8
2011年(平成23年)東日本大震災M9.0
2016年(平成28年)熊本地震M7.3
2018年(平成30年)北海道胆振東部地震M6.7
2024年(令和6年)能登半島地震M7.6

震度6強を超える地震は毎年のようにどこかしらで発生しています。建築基準法では数百年に一度起きる可能性のある地震(震度6、7程度)に被災した際に倒壊、崩壊しない建物であることを基準として定めています。もし被災したとしても建物は軽微な損傷程度で住み続けられる状態にしたいと考えるのであれば耐震等級3は必須になると思います。逆に基準法の通り倒壊せず命が守られるのであれば等級1で良いと考える人もいるかもしれません。
またリフォームや中古住宅の購入を検討されている場合にはS56年以後の建物かどうかがとても重要です。S56年以前の建物は大地震の際には倒壊する危険性があるため、耐震補強が必要になってきます。

当然ですが耐力壁の数が多くなると大きな部屋や吹き抜けを計画することが難しくなる等、間取りの自由度は下がり設計の難易度は上がります。それを技術的に解消しようとすると建築費用が過大にかかってしまうことがあります。

よく耐震等級を売り文句にしている広告を見かけますが、言葉の基準は上に示した通りです。そしてまたよく目にするのは「相当」という文句です。「耐震等級3相当」
相当と言われると疑いたくなってしまいますよね。
耐震等級を公式に認められた建物であれば地震保険の割引があったり、長期優良住宅等の制度を利用すれば住宅ローンの金利で優遇を受けられたり、減税になったりといった恩恵が受けられます。しかし「相当」という言葉は公式な認定は受けないけれど実際には同等の性能があるという意味で使われています。地震保険や住宅ローン金利、減税の優遇を受けることはできません。認定を取得する申請のためには時間や費用が余分にかかるため、損得勘定を抜きにして安心を買いたい場合には「相当」でも良いと思います。

<構造計算って何?>
構造の強さを検討する方法は木造の場合には2つあります。
一つは「壁量計算」ともう一つは「許容応力度計算」です。

木造建築業界では「構造計算」=「許容応力度計算」のことを言います

どちらも木造建築物の構造の検討手法ですが違いがあります。
それは計算の細かさです。
壁量計算は多くの人がわかりやすく簡単に検討するための簡易計算であるため、どこの設計事務所や工務店などでもできます。それに対して許容応力度計算はより専門の知識を持った設計士や計算ソフトを持った事務所でないと時間がかかりすぎて仕事になりません。たいていの場合は構造計算を専門に行っている会社(構造事務所)に計算をしてもらうことになります。ですからその分費用と時間が必要になります。

壁量計算
壁量計算は建物の床面積(耐地震力)や真横から見た外壁の面積(耐風圧力)あたりに必要とされる耐力壁の長さが足りているかどうかを検証するもの。床面積や壁面積あたりにかかる力を概算で算出するためざっくりと余裕を見た計算方法になります。また耐力壁の配置バランスについての検討(四分割法)もします。

許容応力度計算(構造計算)
許容応力度計算はより細かい建物の重量を基に地震力を算出し、その力に対する耐力壁が足りているかどうかを検証します。耐力壁の配置バランスは偏心率の検討を行います。また柱、梁、接合部、基礎についても部材ごとに詳細検討を行います。

許容応力度計算を行うためにはより専門の知識を持った設計士や計算ソフトが必要になってくるため当然ながら時間と費用がかかります。壁量計算の検討は数枚程度の内容で検討できるのに対して、許容応力度計算の計算書のファイルはどしっと分厚い本になるといえばその内容の違いをご想像いただけると思います。

同じ耐震等級であっても壁量計算なのか、許容応力度計算なのかによってその内容には差があります。ただ誤解を招きやすいですが壁量計算だから安心できないという訳ではありません。標準的な建物であれば詳細に計算するよりも壁量計算の方が手間が省けて効率的です。変わった形状や複雑な設計の場合には詳細な計算をしないと簡易計算では検討しきれていない部分も出てくるため許容応力度計算をする必要があると思います。

また許容応力度計算しているからといって全て手放しで安心な訳でもありません。許容応力度計算は壁量計算よりも詳細なため壁量計算よりもギリギリの数字を攻めることができてしまうことがあります。ギリギリとは建築基準法で定められた範囲内のギリギリです。建築基準法はあくまでも最低限度を示す物差しでしかないので、たとえ計算結果はOKであったとしても余裕を持った計画にしたいですね。

<想定外>
ここまでに述べてきた通り建築基準法が想定しているのは極めて稀(数百年に一度程度)に起こる地震に対してです。熊本地震ではその震度6強を超える揺れが3度繰り返し観測されている地域がありました。数百年に一度と想定されているものが複数回繰り返し発生していたのです。
このような地震の被害を受けた木造建築物の被害状況を調査した結果が公表されています。サンプル数に差があるため割合比較をそのまま鵜呑みにはできないですが、耐震等級1の建物では倒壊しているものがあります。対して耐震等級3では大部分が無被害であったと報告されています。さらに2000年以降の木造建築の被害状況では倒壊2.3%、大破4%、軽微~中破33.6%、無被害60.1%となっています。

倒壊した建物(2.3%)の原因の半数は柱梁の接合部金物の施工が基準を満たしていなかったもの。残りの半数は観測されているよりも局所的にさらに激しい振動が起きた可能性があると推測されています。2000年以降の耐震基準を満たしていても1%程度は倒壊してしまっています。この想定外の1%をどう捉えるのかが重要であると思います。
熊本地震による被害の分析から耐震等級1はあくまでも最低限度の基準であり、これを満たしていれば万事OKというものではないということが見て取れます。また計画のみならず適切な施工がされているかをチェックすることの重要性も示しています。
(参考:熊本地震における建築物被害の原因分析を行う委員会報告書のポイント/国土交通省)