「家のつくりやう(よう)は、夏をむね(旨)とすべし。冬はいかなる所にも住まる。暑き比(ころ)わろき住居は、堪え難き事なり。」
徒然草の中にある有名な一節ですがエアコンが出現するまでの家づくりは高気密高断熱とは真逆の作られ方をしていました。高温多湿な日本の夏をしのぐために家の中は風通しをよくすることで熱がこもらないようにし、湿気を外部へ逃がす工夫がされていました。この日本の気候風土に対抗するための方法は風水などを通じても代々言い伝えられてきたのだと思います。
日本は2050年カーボンニュートラル達成に向けて様々な施策に取り組んでいます。どの業界でも省エネルギー化に注目が集まっており、建築業界でも断熱性能に関しての基準になる指標や仕様が改正されています。聞きなれない用語も多いので関わりの少ない人には訳がわからないのではないかと思います。
2025年4月からは建築基準法の改正で断熱性能についての内容が盛り込まれました。木造住宅においても一定の断熱性能を担保することが義務付けられ一定の基準を満たさない建物は建てられなくなりました。
暑い。寒い。熱が逃げにくい。
これらのことは目に見えません。
デザインや色、質感については図面や写真、サンプルなどで確認することはできますが、見えないものは実際に体験するまではわかりにくいです。家づくりを計画している段階でこの性能について判断を強いられるのは大変むずかいしいだろうと思います。
ですが「UA値」や「ηAC」なる数字で表された性能で判断していくしかありません。
広告ではこのような数字が踊っていますが肌感覚でその違いを実感することは難しいと思います。高断熱であれば夏場に建物の中に入るとひんやり感じるなどと言ったりしますが、夏場はちょっと木陰に入るだけでも涼しく感じたりしますからね。エアコンが効いていれば低断熱でも涼しくできてしまうので、実際に電気代を確認するまでは断熱性能の違いを実感することはなかなか難しいのではないかと思います。
UA値(外皮平均熱貫流率)
UA値は建物全体の断熱性能を表します。
熱が逃げていく量を表しているので
数字が小さいほど逃げていく熱が少ない。→高断熱です。
※かつて「Q値」を断熱性能の指標として用いていましたがより数値のバラツキが少ないUA値を採用するように変更されています。
ηA(イータ:平均日射熱取得率)
屋根、外壁、窓から日差しによる熱が室内に入ってくる割合を示します。
数字が小さいほど熱が入ってくる割合が小さいので夏の冷房負荷が少なくなります。逆に冬は数字が大きいほど暖房負荷が少なくなります。
C値(相当隙間面積)
C値は気密性能を表します。
隙間の面積を表しているので
数字が小さいほど隙間が小さい。→気密性が高いです。
※C値は隙間の程度を表す数字であるため実際に測定しないとわからない数字です。寒冷地で1.0程度、温暖地域で2.0程度が目安と言われています。
断熱等級、HEAT20基準(Gグレード)
前述したUA値、ηAの数字によって断熱性能の格付けがなされています。2種類の基準があります。


断熱等級
国内を8つの地域に分けてその各地域ごとに基準値が決められています。
等級は1~7段階に分けられていて等級が大きいほど高性能になります。木造住宅は断熱等級4の基準を満たさないと新たに建てることができません。
HEAR20基準
HEAT20は「20年先を見据えた日本の高断熱住宅研究会」という社団法人が任意に提唱している基準です。2009年に設立されているので20年先というと2030年頃を指しているのでしょう。
ZEH/ゼッチ(ネット ゼロ エネルギー ハウス)
ZEHとは高断熱と共に高効率な設備システムによって年間の一次エネルギー消費量をゼロにすることを目指した住宅です。必要とされる断熱等級5以上が必要になります。
「省エネ」と「創エネ」によって使うエネルギーと創るエネルギーの量を概ね±ゼロにする住宅です。
省エネ:高断熱と高効率な省エネ設備により使うエネルギー量を削減
創エネ:太陽光発電などの再生可能エネルギー等によりエネルギーを創る
これらの数値や等級を文句にしている広告を見かけますが全てを鵜呑みにせずに目安程度で考えるのが良いと思います。数字は目で見て分かりやすいのでその数字を追いたくなりますが、UA値やηACが他と比べて大きいからといってエアコンが全く効かない訳ではありませんし、30年前の建物よりも間違いなく性能は格段に上がっています。良い数字であるに越したことはありませんが、あまり過敏になりすぎない方が良いように思います。
換気
高気密高断熱の話で「断熱性能」や「隙間」といったワードと並んで忘れてはいけないのは「換気」の重要性です。高気密高断熱は換気が十分になされていなければ室内の湿気の逃げ場がないため、結露の原因になってしまう恐れがあります。
どんなに断熱性能が高くても気密性が悪ければいくら熱を断つ意味がなくなってしまいます。分厚い壁に囲まれた箱でも大きな穴が開いていたら空気が流入して外部と同じ気温湿度になります。
換気に関しては住宅では2時間に1回家の中の空気が全て入れ替わるようにしなければいけない決まりになっています・・・。一所懸命に隙間のない家を作っても2時間に1回は換気扇によって空気の入れ替えがされています。
矛盾をはらんでいますよね。もはや苦労が水の泡。
2時間に1回は外気の暑い(冷たい)空気をエアコンによって冷やし(温め)直さなければならないことになります。高気密高断熱を追い求めることも重要ですが熱交換できる換気をすることも大事だと思います。・・・ただ費用がかかってしまうのが難点です。
断熱性能を高くするために
建物の中で最も断熱性能の低い場所は窓です。ガラスでしか仕切られていないので当然といえば当然です。この窓の面積を小さくすることと断熱性を高めることができれば壁や屋根の断熱材は同じでもUA値やηACは大きく向上します。
最近ではペアガラスは当たり前になりました。
ペアガラスの内部にフィルムを貼ったLow-eガラス。
そしてガラスを2枚ではなく3枚にしたトリプルガラスも登場しています。
フレーム部分もアルミよりも熱伝導率の低い樹脂を使った樹脂製サッシも広がりつつあります。
気密性能を高くするために
当たり前ですが建物の中で穴が空いている部分の隙間を少しでも埋めることになります。
まずは断熱材の内側に気密シートを貼る、もしくは耳付き断熱材の耳を気密テープでしっかり貼ること。次に気にするのはスイッチやコンセント、照明器具廻りを気密性が高くなるような仕様とすることです。そして給水管や排水管廻りの隙間処理にも目を配れば相当隙間は減らすことができます。