「家のつくりやう(よう)は、夏をむね(旨)とすべし。冬はいかなる所にも住まる。暑き比(ころ)わろき住居は、堪え難き事なり。」
徒然草の有名な一節です。
高温多湿な日本の夏をしのぐ事のできる住まいこそが是であると昔の人は考えていました。そして今も変わっていないです。昔の家は深い軒と縁によって夏の日差しを遮り、逆に冬の日差しは家内へ取り込めるように工夫されていました。間仕切りは全て障子などの建具なので家中の風通しが良く湿気を逃がすようにできていました。
現代は力技で、高気密高断熱の外壁と屋根で外部とは別世界を作り出しています。しかし太陽と地球の関係は1000年程度では変化することはありません。吉田兼好の時代の考えも未だに有効で、現代の技術と合わせて使うことで、よりエコな建築とすることができます。

屋根は建築を覆って雨や日差しを防ぐのが役割です。そのため傘と同じように大きければ大きいほど濡れにくくなります。外壁の経年劣化の度合いも軒の深さで左右されます。反面、大きくて雨に濡れにくい傘はその代償として風の影響を大きく受けるようになってしまいます。台風のニュースでは強風で傘が壊れる瞬間の映像がよく使われていますね。屋根を大きくする場合は風の影響を考慮して構造に注意する必要があります。
また暑い夏の日差しは軒の深さが重要になってきます。車では西日が眩しいときにはサンバイザーで遮りますがあれと似たような感覚です。夏の日差しを屋根の出で遮るのです。しかし軒を深くしすぎると暗くなりすぎたり、冬の暖かい日差しも遮ってしまうことになるので慎重に寸法を決める必要があります。

屋根は大前提として水を通さない素材、作りであることが要求される。
そして持久力。メンテナンスなしでどのくらい耐えられるのか。
また美観も軽視はできません。屋根の素材、色、形によって建物の印象は大きく変わります。特に代表的な4つを紹介します。
形について
切妻
まず家と聞いて思い浮かべるのは三角の屋根の形だと思います。五角形の家の形はシンメトリーでバランスが取れていて物理的にも雨漏りがしにくい形状です。この三角屋根のことを専門用語で「切妻」(きりずま)と呼ばれています。古くからある形態なので最も親しみのある形ではないでしょうか。
この切妻型の中でも軒を出すのか出さないのかによっても印象は変わります。軒の出がある場合は日本では馴染みのある落ち着いた雰囲気の建物になります。軒の出が無い場合はよりシンプルな形となり西欧風の印象になります。軒の出がある場合の方が雨や日差しによる外壁の劣化予防になります。
片流れ
一方向に勾配をつけた屋根形状です。建物の形は台形を横に向けたような形状になります。勾配の角度によって様々な見え方をしてきます。緩やかな勾配だとほぼ四角い建物の形に見えシンプルでスッキリとした印象を与えます。勾配を急になるとシャープな印象がより強くなります。また形状は単純であるため複雑な部材も少ないため比較的コストパフォーマンスに優れています。
陸(ろく)屋根
フラットに見える屋根です。ビルなどの建物は大抵この屋根になっています。建物を四角に見せることができるのでスタイリッシュな印象の建物になります。屋根の外周をぐるっと低い壁で囲みプールのようにした屋根となるため水が流れにくく、排水溝が落ち葉や汚れで詰まると雨漏りの原因になります。そのため定期的にメンテナンスが必要です。
寄棟
4面にそれぞれ勾配をつけた屋根形状です。建物の外周のどの面も屋根が低く下がってくるため外壁の保護という意味で優れています。また見た目も重心が低く、格式高い印象を与えます。

材質について
屋根の材質について日本の歴史を遡ると屋根勾配を急にした茅葺きから始まり近代コンクリートが開発されるまでは勾配のついた屋根が当たり前でした。瓦屋根が立ち並んでいる街並みが日本の原風景のように思われます。今では材質の種類も豊富になり様々なデザインの建物が入り混ざり色とりどりな看板も相まって、混沌とした街並みが日本の象徴のようになっています。流れにあらがうことは到底できませんが決して美しいとは言い難い光景です。
ガルバリウム鋼板
(アルミニウム、亜鉛、シリコンでメッキを施した薄い鉄板)
金属屋根の一種でありもっとも採用事例が多いです。塗装の種類で価格と性能に違いがあります。
フッ素樹脂塗膜がもっとも耐用年数が長いです。
耐用年数30年
メリット デメリット
錆びにくい 薄いため断熱性、防音性は低い
軽いため耐震的に有利 (断熱材を貼りつけた商品もある)
スレート(コロニアル、カラーベスト)
(セメント、繊維素材を板状に加工)
耐用年数25~30年(10~15年塗装メンテナンス)
メリット デメリット
施工性が良い(施工単価が比較的に安価) 定期的なメンテナンスが必要
メンテナンスがしやすい 割れやすい
乾きにくいため苔が生えやすい
瓦(粘土瓦)
(粘土を焼いたもの)
耐用年数50年
メリット デメリット
耐用年数が長い 重いため耐震性で不利
再塗装が不要 施工費が高い
再利用ができる
FRP防水(陸屋根)
(Fiber Reinforced Plastics)繊維強化プラスチック
船や浴槽などにも使われたりする素材です。
耐用年数10~15年
メリット デメリット
防水性が高い 費用が比較的高額
軽量のため耐震性が高い 木造の広い面積には不向き
工期が短い
シート防水(陸屋根)
塩化ビニル、合成ゴム等のシートを貼る防水
耐用年数10~15年
メリット デメリット
様々な下地に施工ができる 複雑な形状には向いていない
仕上がりの見た目に差が出にくい 施工業者の技術力が必要
工期が短い